岡部倫子氏の研究で考える「感情労働の可能性」

近年、サービス経済の成長に伴い、顧客にサービスを提供する企業と従業員が増加しています。そして、対人サービスを提供する従業員が行うことが「感情労働」です。感情労働の概念は、アメリカの社会学者ホックシールドが、1983年に出版した著書『管理される心: 感情が商品となるとき』において、客室乗務員の働き方を分析したことにより、広く知られるようになりました。感情労働は、肉体労働・頭脳労働とは異なり、主に顧客サービス従業員が、自分の感情をコントロールすることが必要となる働き方のことです。感情労働が必要とされる職業は、客室乗務員の他にも、看護師や介護士、カスタマーサービス職員、教師、カウンセラーなどが挙げられます。また、近年では顧客サービス業だけではなく、技術職であっても顧客満足度を向上させることが求められるため、コミュニケーション能力の重要性は高まるばかりです。感情労働研究は、あらゆる職業で活かせる可能性があります。

岡部倫子氏は経営学の研究者で、フランスで航空MBAを、日本で博士を取得した経験を活かし、サービス企業と従業員の感情労働の研究を行っています。氏は、2017年に「感情労働と役割コンフリクト・曖昧性との相互効果」という論文を発表し、その中でフィールド・ワークとアンケート調査を実施して分析をしました。その結果、現代のように企業間競争が激しい環境において、複雑でストレスの多い職場では、役割コンフリクトと役割の曖昧性が発生しやすく、サービス従業員の組織への信頼や職務満足度は低下し、自分の本当の感情を感じられなくなる「感情の枯渇」に陥るなど問題点を指摘しています。

岡部氏は、サービス従業員が感情をコントロールする際に、二つのタイプの「感情戦略」をとることを指摘しています。サービス従業員が感情戦略を実行する目的は、企業が従業員に望む感情を自然に感じられない時に、演技するような方法で感情を表現することです。それは表層演技と深層演技です。「表層演技」とは、従業員が自分の感情を変えずに、一時的に表情と態度を変えて顧客に対応する感情戦略です。表層演技は、顧客の対応が一時的である場合に効果的ですが、ひんぱんに行う、あるいは長期的に行うと、従業員は自分の本当の感情が分からなくなる「感情の枯渇」に陥るリスクがあります。他方で「深層演技」とは、努力によって自分の感情をコントロールし、企業が求める感情が自分の気持ちと一致するまで、自分の気持ちを修正して顧客に対応する感情戦略です。このタイプは責任感の強い人に見られます。

そして岡部氏は論文の中で、感情労働の一環である「アフェクティブ・デリバリー」が、会社に対する信頼の低下や感情の枯渇を緩和することを検証しました。アフェクティブ・デリバリーとは、ポジティブな感情表現を積極的に用いて、顧客満足度を向上させる対応です。岡部氏は、アフェクティブ・デリバリーは、顧客満足度を向上させるのみならず、感情枯渇やバーンアウト (燃え尽き症候群) を予防する効果があるとして、従業員が感情のストレスを蓄積しないために必要であると述べています。アフェクティブ・デリバリーを上手に用いて、従業員のウェルビーイングにつげることは、従業員のみならず企業にとっても有益となるでしょう。

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